【PACファンレポート60兵庫芸術文化センター管弦楽団 第138回定期演奏会】2023年1月の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会は、佐渡裕芸術監督のタクトでスタート。近年、PACと精力的に取り組んでいるグスタフ・マーラー(1860-1911)が晩年に近い1904~05年に作曲した「交響曲 第7番 ホ短調」だ。ホールに入ると目に入る大編成の陣容。プログラムで数えると総勢102人! 演奏開始を楽しみに待った。
自身が指揮する演奏会では恒例の演奏前トークで、佐渡さんはマーラーの作曲した交響曲を説明しながら、この日の演奏曲を紹介した。
「マーラーの交響曲の2番から4番は合唱や独唱が入っています。つまり、曲の意味するところをテキストで説明して補完しているといえます。5番からは声楽が入らず、今日演奏する7番も楽器だけで演奏する曲です。冒頭にテノール・ホルンという珍しい楽器が出てきますが、ハープも2台、牛の首につけるカウベルのようなものまで登場し、本当に様々な楽器を駆使して、珍しい演奏法も取り入れています。そうまでして彼は“新しい音楽”を追求しようとした。何に対して新しいかというと、ベートヴェンですね。苦悩から歓喜へという素晴らしい交響曲を超える作品を作ろうと腐心した。今もオーストリアに残るマーラーの作曲小屋を訪れたら、わずか10畳ぐらいのスペースにピアノがあり、周りは山や湖などの自然があるだけ。その自然の美しさや厳しさと対話しながら、彼はこの曲を作った。花に話しかけている不思議なおじさん、マーラーはそんな人だったかもしれない。支離滅裂にも思える5つの楽章が、第3楽章を真ん中に対称的に並んでいます。第2、第4楽章には『夜曲』という副題がついています。昨日の本番で第5楽章を指揮しながら、マーラーが目指したものは、これだったのか!と思えました。お聞きください」
第1楽章「ゆっくりと-アレグロ・リゾルート、マ・ノン・トロッボ」。冒頭のテノール・ホルンの伸びやかな音色に続き、金管が力強く響き出す。途中、弦の美しい旋律にうっとりしていると、それが不意に途切れ、不穏な重低音が場面を変える。すべての楽器がせめぎ合うように鳴り響く中で、弦が再び美しい旋律を取り戻そうと試みる。しかし、止めることのできない時の流れに押し流されるかのように否応なくマーチが続く。
第2楽章「夜曲:アレグロ・モデラート」。やまびこのようなホルンの音色を合図に、木管、次いで弦が動き出す。珍しい演奏法を駆使し、様々な音色が静かに織り上げていくタペストリーは、まるで相容れない多様性をはらんだ現実世界の隠喩のように思えてくる。
第3楽章「スケルツォ:影のように」。プログラムに「怪奇な雰囲気にあふれる不気味なスケルツォ楽章」とあるが、確かに不思議な印象を残す楽章だった。
第4楽章「夜曲:アンダンテ・アモローソ」。夜の散歩のひそやかな足音を思わせるような木管が刻むリズムが面白い。この楽章にだけマンドリンやギターが登場するが、マーラーは何を思ってこんな多彩な音色の組み合わせを考えたのだろうか。
第5楽章「ロンド-フィナーレ」。ティンパニの力強い音を合図に、トランペットのファンファーレからすべての楽器が鳴動する。パーカッションを含めたすべての楽器が大活躍するスケールの大きさ。予測不能なスリリングな展開に思わず体が揺れてくる。終盤5分、躍動の中に希望が見えた。
約80分に及ぶ演奏後の佐渡さんは汗びっしょり。PACメンバーも晴れやかな笑顔を見せていた。マエストロは何度も拍手に呼び戻されたが、この日はアンコールの演奏はなかった。それも大納得の熱演だった。
コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの瀧村依里(読売日本交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席、神戸市室内管弦楽団奏者)、チェロの富岡廉太郎(読売日本交響楽団首席)、コントラバスの石川滋(読売日本交響楽団ソロ・コントラバス)、トランペットのハネス・ロイビン(元バイエルン放送交響楽団ソロ首席)。スペシャル・プレイヤーはオーボエのクリストフ・ハルトマン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団奏者)、クラリネットの三界秀実(元東京都交響楽団首席、東京藝術大学准教授)、バスーンの中野陽一朗(京都市交響楽団首席)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、テノール・ホルンのハンスイェルク・プロファンタ―(元バイエルン放送交響楽団首席)、ティンパニのミヒャエル・ヴラダー(ウィーン交響楽団首席)。
PACのOB・OGはヴァイオリン8人、チェロとコントラバスが各2人、ヴィオラとフルートとパーカッションが各1人が参加した。(大田季子)